これは「Happiness Chain Advent Calendar 2024」の8日目の記事です。
はじまり
幼少の頃からコンピュータに興味がありました。
そして縁があって、プログラミングスクール HappinessChain に入会したところまでが
EP 0: オリジンの内容でした。
入会から9ヶ月余りが経ち、50歳となった今、あらためて「学び続けることの意味」について向き合っています。
本記事では、わたしのルーツと家族への思いを綴りました。
帰郷
山形県鶴岡市、自然豊かなこの町の酒蔵が建ち並ぶとある集落。
路地を一本入れば芳醇な日本酒の香りが風に乗って運ばれてくるこの町の片隅、江戸時代から続く古い家にわたしは生まれました。
生命の息吹を感じさせる春風、潮の香りを運ぶ夏の海風、黄金色に染まった田畑を駆け抜ける秋風、そして厳しい冬の地吹雪。
四季折々の風をその身に感じながら高校時代までをこの地で過ごしました。
そして故郷を離れて幾年、記憶の中で吹く風は、いつしか望郷の念へと変わっていました。
我が家の長女が言葉を覚え、お喋りができるようになった頃に帰省したときのことです。
父は久しぶりに会う孫(長女)と会話ができることに自然と笑みがこぼれ、上機嫌です。
父にとって最高の幸せを感じるひと時だったのでしょう。
お酒も進み、普段物静かな父が少しずつ饒舌になってきました。
そのとき、何かを思い出したのか、真剣な表情を浮かべた父がわたしに向かってこう言いました。
「いいか、よく聞け!」
わたしは知っています。
父の口からこの言葉が出たときは、心の底から何かを伝えたい合図であることを。
沈潜の風
「『沈潜の風(ちんせんのふう)』って知ってるか?」
わたしは初めて耳にする「ちんせんのふう」という言葉に戸惑いを隠せませんでした。
続けざまに父はこう言いました。
「じゃあ、藤沢周平って鶴岡出身の小説家は知ってるか?」
愛読書がジャンプ、マガジン、サンデーだったわたしは、知る由もありません。
キョトンとしたわたしの表情を察知して、父はその説明を始めました。
「沈潜の風(ちんせんのふう)ってのは、俺たち鶴岡に暮らす人の気風を表す言葉だよ。
目立つためでもなく、自慢や力を誇示するためでもなく、ただ自分のために技術を磨き、必要な場面でそれを活かす。そんな謙虚な姿勢のことを言うんだよ。
藤沢周平作品にはその気風が色濃く写し出されているから、地元のことを知るためにも一度読んでみると良い。
ああ、そうだ、『たそがれ清兵衛』って映画を一度観てみるといいよ。」
一通り話し終えた父は、満足そうな笑顔を浮かべて孫との会話を再開しました。
「わたしにもそのような気風が受け継がれているのだろうか?」と多少の疑問を抱きましたが、鶴岡に生まれた人間であるからには、かく有りたいと思いました。
それから数日たったある日、思い出したかのように近所のレンタルショップへと足を運びました。
目的は、あの日父が勧めてくれた『たそがれ清兵衛』に描かれている「沈潜の風」というものをその目で見て確かめるためです。
真田広之が演じる家族のために戦う下級武士の姿をみて、こう思いました。
「何だよ、この生き様、かっこいいじゃないか!」
親から子へ
父は齢80を超えた今でもPCに触れています。
度々電話やメールでExcelの使い方など、質問してきたりすることもありますし、帰省した際に「vlookup関数の使い方を教えてくれ」と頼まれたこともありました。
後期高齢者である父の口から「vlookup」という単語が飛び出たことに驚きましたが、いくつになっても学び続ける姿を見て、
心の中で、「やっぱり、父ちゃんすげーな!」と感動しました。
そう、生粋の鶴岡の人間である父の中には、「沈潜の風」が力強く吹いているのです。
そのことに気づくまで時間はまったくかかりませんでした。
母は、実家を離れ一家の主となったわたしと話をすると、
「考え方ややっていることが、お父さんそっくりだね。やっぱり親子だね」
と言います。
小さな頃から父親の背中を追い、考え方や行動を模倣してきたわたしにとって、父の背中に追いついたような気がして、その言葉を聞くたびに、心の中で嬉しさが込み上げてきます。
ある日、高校進学時に一度閉ざされたエンジニアへの道を歩み始めたことを母に報告しました。そして、毎日勉強していることを告げると、こう言いました。
「やっぱりお父さんの子だわ。」
親の背中を見て子は育つと言いますが、どうやらわたしの中にもその風は受け継がれているようです。
子から孫へ
わたしは、本物のエンジニアになりたくてHappinessChainへ入会してからというもの、ほぼ毎日学習を継続しています。
鶴岡出身者の一人として、沈潜の風に乗り、夢を叶えるために一歩ずつ確実に前に歩を進める日々を送っています。
そして、我が家の2人の娘には、この学び続けている父の姿を眼に焼き付けてほしいと思っています。
いつまでも学び続けることの大切さを自分の背中を通して感じ取ってほしいのです。
いつの日かその姿勢が親から子へ、子から孫へと受け継がれていくのなら、親としてこれ以上の幸せはないと感じています。
誰がために
妻は誰よりも真面目で、わたしのことを家庭の中でいつも支えてくれるかけがえのない存在です。
そのおかげで、思春期という子どもとの関わりが難しい時期でも、2人の娘たちはわたしを煙たがることもなく、笑顔で会話をすることができました。
今日この明るく穏やかな空気が家庭に流れているのは、紛れもなく妻のおかげです。
本当に心から感謝しています。
しかし、そんな妻にはひとつ大きな課題があります。それは「足の問題」です。
妻は股関節症を抱えており、軟骨がすり減ってしまったため、歩行が困難になることがあります。
「足も悪いのだから、もう仕事やめないか?」わたしがそう言っても、
「大丈夫だよ。もう少し働けるよ。ありがとう。」
と笑顔で返してきます。
その笑顔の裏には、家族のために少しでも力になりたいという強い気持ちが隠れているのでしょう。
足を引きずりながら飲食店で懸命に働く妻の姿を目の当たりにするたび、「どうにかして、楽にさせたい」と、胸が締めつけられる思いになります。
「もう無理をしなくてもいいんだよ」
そんな言葉を心から伝えられる日が来ることを願っています。
妻へのこの思いもわたしが学び続ける原動力のひとつであることは、言うまでもありません。
思い描く未来へ風は吹く
まずは、エンジニアになるという自分自身の夢を叶えること。
しかし、その夢を叶えた瞬間がゴールではありません。
それは、家族を幸せに導くための新たなスタートラインに過ぎません。
だからこそ、わたしは謙虚に学び続けなければなりません。
どんなに小さな一歩でも、前に進み続けます。
今はそよ風のように静かに、確実に力を積み上げる時期。
やがてその風は、一陣の風となり、未来へ向かう家族を力強く後押しすると信じています。
鶴岡人であることの誇りを胸に、この風を吹かせ続けながら、家族と共に思い描く未来へ進んでいきます。
いかがだったでしょうか?
「沈潜の風」という言葉は、鶴岡に根付いた気風であるだけでなく、日本人が本来持っているマインドそのものなのではないかと、感じています。
沈潜の風が気になった方は、ぜひ「たそがれ清兵衛」を始めとする藤沢周平原作の映画をご覧になってください。
きっと、こう思うことでしょう。
「かっこいいじゃないか!」
あなたの中にもきっと風は吹いています。
では、また✋️